【車いすのダイバー】障害があるかないかは問題なく「好き」とか「やりたい」という気持ちが常識を越えたエネルギーを与えてくれる
寝たきりゼロの老後をすごす方法/その壱
■アメリカではハンディも個性のひとつ?
私は今54歳(当時)、私の仕事人生も29年になろうとしている。
私は運良く自分がやりたかった福祉関連の仕事に就くことができたが、組織の中での仕事なので、楽しいことばかりではなく、自分を殺して働くこともしばしばで、何度も何度も辞めることを考えた。
そんな時、海中の異次元の無重力の開放感を思い、素晴らしい風景を心に描き、「辞めたらお金稼げなくて、潜れないし」と、その場をやり過ごすことができた。
わが国の考え方では、趣味(遊び)は、自分でお金が稼げる人がすること、世間的に一人前と認められた人がすることと位置づけられているようだ。
また障害などのハンディがあって、世間的に一人前に行動できない人たちは、人に迷惑をかけず、まず一人前に何でもできるようにすること(病気を治すこと)に勤めなければならない、という不文律があるように思う。
でも、私たちは、やりたいことをやりたくて生きているし、やりたいことをやれるようにするために、つらい仕事や訓練や手術などに耐えて行けるのではないか。様々なハンディがあって、世間一般の出世や幸せを得ることが難しい人ほど、打ち込める趣味(自分の世界)をもつことが重要であり、人としての権利だと思うのだ。
アメリカでは、事故などで障害者になって嘆き悲しんでいる人の枕元に、医者や看護師が、障害者でも出来るレジャーやアウトドアスポーツの情報誌をさりげなく置いて行くそうである。
もちろん最初、障害者に成り立ての人は、そのようなものを見ることもせず、ひどく拒否的な態度に出るのであるが、医者や看護師は「何を嘆くことがあるのか、まだこんなにやれること、楽しいことが沢山あるじゃないか」とその人に語りかけるのだそうである。
ダイビングに出会う前の私は、悪いことや出来ないことの多くを障害を持っていることのせいにして、やってみる前にあきらめてしまっていたように思う。
ダイビングと出会って、物事に対するそのような態度は、大きく変わったのである。
(「車いすのダイバー」その弐へ続く)
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<略歴>吉野由美子 ブログ「吉野由美子の考えていること、していること」
1947年生まれ。 視力と歩行機能の重複障害者。先天性白内障で生後6ヶ月の時から、7回に分けて水晶体の摘出手術を受ける。足の障害は原因不明で3歳頃から大腿骨が内側に曲がる症状で、手術を3回受けて、68歳の時に骨粗鬆症から腰椎の圧迫骨折、現在は電動車椅子での生活。
東京教育大学附属盲学校(現:筑波大学附属視覚特別支援学校、以下:付属盲)の小学部から高等部を経て、日本福祉大学社会福祉学部を卒業。
名古屋ライトハウスあけの星声の図書館(現:名古屋盲人情報文化センター)で中途視覚障害者の相談支援業務を行ったのち、東京都の職員として11年間勤務。
その後、日本女子大学大学院を修了し、東京都立大学と高知女子大学で教鞭をとる。
2009年4月から視覚障害リハビリテーション協会の会長に就任する。2019年3月に会長を退任し、現在は視覚障害リハビリテーション協会の広報委員と高齢視覚リハ分科会代表を務める。
著書・執筆紹介
●日本心理学会 「心理学ワールド60号」 2013年 特集「幸福感-次のステージ」
「見ようとする意欲と見る能力を格段に高めるタブレット PC の可能性」
●医学書院 「公衆衛生81巻5号-眼の健康とQOL」 2017年5月発行 視覚障害リハビリテーションの普及
● 現代書棒 「季刊福祉労働」 139号から142号
2013年 「インターチェンジ」にロービジョンケアについてのコラム執筆 142号
● 一橋出版 介護福祉ハンドブック17「視覚障害者の自立と援助」
1995年発行